ポスター発表にあたって

毎年,多くの参加者が本研究合宿で初めての学外発表を行っていることを受け,VIP合宿のポスターセッションを有意義に過ごしていただくためのコツをまとめました.今回,初めてポスター発表を行う方も,初めてではないけれどVIP合宿の雰囲気を知りたいという方もぜひ参考にしてみて下さい(VIP2012ウェブサイトを加筆修正).

ポスターセッションとは

ポスターセッション(ポスター発表)とは,自身の研究をまとめたポスター(一般的にA0やB1サイズ)の前で,スライドを用いた発表と同様に研究の説明を行う発表形式です.

作成時のポイント

ポスター発表も基本的なところはスライドを用いた発表と変わりません.しかし,スライドによる発表と比べて自分の研究を載せるスペースが限られている,聞き手との距離が近いなど異なる点もいくつかあります.以下に気を付けるべきポイントをまとめました.

字は適度に大きくしよう

ポスターを作成していると,思った以上にスペースが少ないことに気付くと思います.研究を始めたばかりであっても,その研究を選んだ経緯や基となる関連研究の説明,自分のアイディアなど書きたいことを上げればきりがありません.

そんな時,文字を小さくしすぎるのは考え物です.ポスター発表では隣の発表者と距離が近いことが多く,そのため,自分の発表を聞きに来てくれている人たち全員が近くからポスターを見られるとは限りません.それに加えて,文字が多くなると,せっかく一生懸命まとめた内容も読む気が半減してしまうのが事実です.本当に書きたい内容はどれなのか,よく考えた上で完結にまとめるのがポスター発表のポイントでしょう.

図や表で研究を効果的に見せよう

普段,研究を行っていると,自分の研究について振り返って,データをまとめたり,人に見せるための図やデモビデオを作ったりという場面はそれほど多くないのではないでしょうか。特に,ビジョン関係の研究というのはプログラムを実行すると結果が目に見えて明らかに分かるものが多いため,データの集計など「最後にやったのはいつだろう?」ということも少なくないと思います.

ですが,自分の研究を発表する上で,これらのデータはとても重要です.実際に発表していると「実行結果の画像はないの?」「計算時間はどれくらいなの?」といった質問を受けることは決して珍しくありません.ですから,こういったデータはしっかりとまとめて,自分の研究の結果が「数字」や「画像」でしっかりと伝わるように心がけましょう.

課題・未完成の部分もさらけ出そう

発表をするとき,結果が出ていない部分,自分でもよくわかっていない部分を出すのはちょっと抵抗を感じる方も多いでしょう.しかし,ポスターにまとめる際,こういった内容が全くあってはいけないということはありません.その証拠に,多くのポスターには「今後の課題」という項目があります.

ポスター発表の良いところは興味を持ってくれた人とその場で議論ができるところにあります.ですから,自分の抱えている課題や今後の展望などを簡単に書き留めておくことで,思わぬアドバイスが得られることもあります.特に本研究合宿は「研究が未完成でも歓迎」と公言していますので,研究があまり進んでいない人も逆にアドバイスをもらいに行く気持ちで臨むと良いかもしれません.

発表時のポイント

ポスター作成時の注意について触れたところで,次はいよいよ発表時のポイントです.1セッション10分など短い発表時間の口頭発表と違い,45分(本研究合宿の例)など長めの発表時間が設定されているポスター発表では,発表のやり方も少し違ってきます.ここでは,ポスター発表を行う際のポイントをいくつか挙げていきます.

発表と質疑応答のバランスを考えよう

ポスター発表では発表内容もさることながら,時間の使い方がとても重要です.通常45分のセッションであれば,1通りの説明を4回~5回ほど行ってその後にディスカッションするスタイルが一般的です.ですから,1回の発表時間は実質5分程度になります.

発表内容によって多少の差異はあるものの,通常,説明と質疑応答のバランスは1対1ぐらいが普通です.発表スタイルとして,最初からスライド発表のように順番に説明をするスタイルや,概要をざっと説明してから質疑を受け付けて議論を始めるスタイルの方もいらっしゃいます.またオーディエンスの方も発表中に気になった点を随時質問する方や,講演時間の終了間際に「簡単に(手短に)説明して!」という方もいらっしゃいます.

自分の発表内容に合った説明のスタイルをあらかじめ検討し、オーディエンスの雰囲気に応じてスタイルを随時変更できるように時間的・心理的な余裕を持つようにしておくと,どんな方が来ても対応できるようになります.

発表で何を伝えたいのかを意識しよう

これはポスターに限らないことですが,発表で伝えたいことを意識して発表内容をまとめることはとても重要です.作成されたポスターには研究についての全体像などが書かれていると思いますが,発表を行うときには,その中で「特に伝えたいことは何であるか」を強調する必要があります.

こうすることで,聞いている側も発表を理解しやすく,またポスターをなぞるだけの単調な発表になりづらくなります.ポスター発表は質疑応答の敷居が低いので,伝えたいことを強調して,不足した部分は質疑応答を使って補うぐらいの気持ちで臨んでもよいと思います.

聞いている人を意識して発表をしよう

繰り返しになりますが,ポスター発表は発表者と聞いている人の距離がとても近いです.そのため口頭発表に比べると,聞いている人の目線が発表者に多く注がれることとなります.そんなとき,ポスターばかりを見て話していたら,聞いている人としてはどうでしょうか?

塾講師のアルバイトや教育実習をしたことがある人はわかるかもしれませんが,聞いている人を見て話すのと,聞いている人を見ないで話すのとでは,話への引き込まれ方が大きく違います.なるべく聞いている人の方を見て話すことを心がけるだけで,発表の雰囲気がとてもよくなりますので,ぜひ試してみて下さい.

さらに発表をよくするために

最後に,さらに発表を良くするためのテクニックを紹介します.歴代の発表者が経験・実践してきたテクニックです.

デモを有効活用する

優秀な発表と評価された発表者へ送られる VIP AWARD ですが,毎年,VIP AWARD を受賞した多くの発表者が自分の研究のデモを用意していました.本合宿でも,デモ用にPCやタブレット等を活用することを許可しています.

プログラムの動作結果や,実験の様子を動画にしたものをデモとしてオーディエンスに見せることで,より自分の研究に興味を持ってもらえるようになり,議論も活発に行われるようになります.

意外と重要な発表に使えるモノ

最低限ポスターと発表者がいればポスターセッションとしては成立しますが,以下のようなものがあると発表がしやすくなったり,オーディエンスの印象に残りやすくなります.

指し棒
手を使って指すよりもポスターを遮らずに済み,どこを指しているかも分かりやすくなります.
自著論文
一般の学会・研究会などでは結構持っている人がいらっしゃいます
追加資料
用語の説明や概念図など,ポスターに載せるほどでもない内容を入れておくと説明を理解してもらいやすくなります
名刺
自分の所属や連絡先を交換することで,発表後に議論したり共同研究のきっかけとなることもあります

役立つサイト・資料

「ポスター発表 コツ」などと検索するだけでも,参考になりそうなホームページが見つけられるかと思います.以下に参考となる本やウェブサイトの一例を示します.

伝わるデザイン|研究発表のユニバーサルデザイン
伝わるデザインの基本 よい資料を作るためのレイアウトのルール
著:高橋 佑磨,片山 なつ
科学者のためのポスターセッションガイド
著:Peter J. Gosling
訳:徳田 耕一,北村 房男
論理的にプレゼンする技術 聴き手の記憶に残る話し方の極意
著:平林 純
理系のための口頭発表術―聴衆を魅了する20の原則
著:R.H.R. アンホルト
訳:鈴木 炎,I.S. リー